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東京地方裁判所 昭和59年(レ)133号 判決

控訴人

株式会社山徳商店

右代表者代表取締役

斉藤弘二

右訴訟代理人弁護士

坂東司朗

坂東規子

被控訴人

増田政之助

右訴訟代理人弁護士

石井恒

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、金四〇万円及び内金二〇万円に対する昭和五九年三月一三日から、内金二〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、それぞれ完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

三  この判決は、第一項中金二〇万円及びこれに対する昭和五九年三月一三日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を命じた部分並びに前項につき、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被控訴人は、昭和二四年一〇月二九日控訴人会社に雇用され、控訴人会社において薪炭、プロパンガス等の販売業務に従事し、昭和五七年一二月当時の給料は一か月金二〇万円であったが、同月一五日、当時の控訴人会社の代表者斉藤とくの代理人斉藤弘二から口頭で即時解雇の意思表示を受けた。

2  控訴人会社は、被控訴人に対し、所定の予告期間を置かずに解雇の意思表示をしたのであるから、労働基準法二〇条により、解雇予告手当として被控訴人の三〇日分の平均賃金二〇万円を支払う義務があるほか、同法一一四条により、解雇予告手当と同額の付加金を支払う義務がある。

3  よって、被控訴人は、控訴人に対し、解雇予告手当金二〇万円及び付加金二〇万円の合計金四〇万円と、これに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五九年三月一三日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因第1項の事実は認め、第2項は争う。

三  抗弁

1  本件解雇の理由は、被控訴人が、当時の控訴人会社の代表者斉藤とくの所有する土地を、ほしいままに自己名儀にしたことにある。これは、被控訴人の責に帰すべき事由に基づく解雇であるから、控訴人には解雇予告手当の支払義務はない。

2  被控訴人は、昭和五七年一二月一五日、本件解雇の通告を受けた際、同日までの給料をその場で受領し、退職に合意したのであるから、解雇予告手当の支払請求権を有しない。

3  被控訴人は、本件解雇当時、控訴人会社の取締役の地位にあったから、被控訴人が労働者であったことを前提とする本訴請求は失当である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁第1項は争う。

2  抗弁第2項中、給料受領の点は認めるが、退職に合意したとの点は否認する。

3  抗弁第3項は争う。

第三証拠(略)

理由

一  被控訴人が、昭和二四年一〇月二九日以来控訴人会社に雇用され、本件解雇当時一か月金二〇万円の給料を支給されていたこと、及び昭和五七年一二月一五日に控訴人会社の当時の代表者斉藤とくの代理人斉藤弘二から口頭で即時解雇の意思表示を受け、その際同日までの給料を支給されたことについては、当事者間に争いがない。

二  控訴人の抗弁について判断すると、控訴人は、本件解雇の理由として、被控訴人が斉藤とく所有の土地をほしいままに自己名儀にした旨主張し、控訴人代表者尋問の結果中にはこれに副う部分もあるが、右部分は、これに反する被控訴人本人尋問の結果に照らし、にわかに信用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠もない。

次に、控訴人は、被控訴人は退職することを合意した旨主張するが、控訴人代表者及び被控訴人本人の各尋問結果によると、被控訴人は、本件解雇の通告を受けた際、解雇には不服があったものの、当日までの給料を黙って受領した事実が認められるにとどまり、これを超えて被控訴人が退職することを控訴人会社と合意したことを認めるに足りる証拠はなく、右認定事実から黙示的に退職の合意がされたと評価することもできない。

更に、控訴人は、被控訴人は控訴人会社の取締役であったから解雇予告手当を請求できない旨主張する。しかし、成立に争いのない(書証・人証略)によると、本件解雇当時、被控訴人は、控訴人会社の取締役であり、社内での地位は代表者斉藤とくに次ぎ、他の従業員の最上位にあり、他の従業員に賞与が支給される場合も、被控訴人にはその支給がなかったことが認められるものの、他方、右の各証拠によると、控訴人会社は、斉藤とくのいわゆるワンマン会社であって、重要な指揮命令はすべて同人から発せられており、一応法人組織となっているが、それは税務対策上のもので、株主総会や取締役会を適式に開催することもなく、斉藤とく以外の役員はすべて名目的地位を有するにすぎず、現に被控訴人の業務内容は他の従業員とさして違わなかったことが認められ、この認定に反する証拠はないから、これらの事実関係に照らすと、被控訴人は、取締役としての地位のほかに、労働者としての地位をも有しており、その受領していた給料は労働者としての地位に基づくものと認めるのが相当であるから、取締役の地位にあったからといって解雇予告手当の請求権を失うものではない。

したがって、控訴人の抗弁はいずれも採用できない。

三  以上によれば、控訴人は、被控訴人に対し、解雇予告手当金二〇万円の支払義務がある。また、控訴人はこれを支払っていないのであるから、労働基準法一一四条により、控訴人に対して右解雇予告手当金と同額の付加金の支払を命ずるのが相当である。

なお、被控訴人は、付加金についても、解雇予告手当金と同様、昭和五九年三月一三日以降の遅延損害金の支払を求めているが、付加金の支払義務は、その支払を命ずる裁判確定時に発生し、同時に履行期が到来すると解すべきであるから、被控訴人の本訴請求中、付加金二〇万円に対する昭和五九年三月一三日以降本判決確定の日までの付加金の支払を求める部分は失当である。

四  よって、被控訴人の本訴請求は、解雇予告手当金二〇万円及びこれと同額の付加金の合計金四〇万円と、内解雇予告手当金二〇万円に対する弁済期が経過した後である昭和五九年三月一三日から、内付加金二〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、それぞれ完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度において認容し、その余は理由がないから棄却することとし、これと異なる原判決は右のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条ただし書を適用し、仮執行宣言の申立ては、付加金とこれに対する遅延損害金の支払を命じる部分については不相当であるから却下し、その余の部分についてこれを認め、民事訴訟法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今井功 裁判官 片山良廣 裁判官 藤山雅行)

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